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『絶歌』の出版について

2015.6.17/一般書

 2015年6月11日、太田出版は『絶歌』を出版しました。
 この本は1997年に神戸で起きた通称神戸連続児童殺傷事件の加害者である元少年Aが事件にいたる経緯、犯行後の社会復帰にいたる過程を自ら綴ったものです。
 なぜ遺族の了解を取らずに出版したのか、遺族の気持ちをどう考えているのか、なぜあのような猟奇的殺人者の本を出すのかなど、出版後、多くの批判をいただいています。

 本書は、決して本人の弁解の書ではありません。いわんや猟奇殺人を再現したり、忌まわしい事件への興味をかき立てることを目的にしたものではありません。
 本書は、加害者本人の手で本人の内面を抉り出し、この犯罪が起きた原因について本人自身の言葉で描いたものです。
 深刻な少年犯罪が繰り返される中、なぜそのようなことが起きたのかをそれぞれの事件の加害者自身が語ることはほとんどありません。一つには機会があってもそれを表現するだけの力を持つ者がいないということがあります。加害者の心の闇は謎のままです。
 神戸連続児童殺傷事件はその猟奇性ゆえ、また加害者が14歳の少年であったことなどから社会に衝撃を与え、人々の脳裏に深く刻み込まれる事件となりました。「少年A」というそもそもは匿名を表す表記が、多くの人にとってそのまま神戸連続児童殺傷事件の記憶に結びつくという特異なそして少年犯罪の代表的な事件です。少年犯罪が起こるたびに神戸の事件は言及され分析されてきました。
 本書に書かれた事件にいたる彼の記述を読むと、そこには大人の犯罪とは明らかに異なる、少年期特有の、性的衝動、心の揺れなどがあったことがわかります。そしてそれだけの内面的な乱れを抱えながらも、事件が起きるまで彼はどこにでもいる普通の少年でした。彼が抱えていた衝動は、彼だけのものではなく、むしろ少年期に普遍的なものだと思います。彼は紙一重の選択をことごとく誤り、前例のない猟奇的殺人者となってしまいました。彼の起こした事件は前例のない残虐な猟奇的事件でしたが、それがいかに突出したものであろうと、その根底には社会が抱える共通する問題点が潜んでいるはずです。社会は、彼のような犯罪を起こさないため、起こさせないため、そこで何があったのか、たとえそれが醜悪なものであったとしても見つめ考える必要があると思います。
 本書の後半は主に、彼の更生、社会復帰にいたる関係者の協力、本人の心境の変化が赤裸々に描かれています。何をもって更生が成ったかを判断するのは難しいことですが、彼は国のシステムの中で更生したとされ社会に復帰しました。
 彼が類例のない猟奇的犯罪を犯しながら、比較的早い時期に社会復帰を果たしたのは、少年法が存在したからです。法により生きることになり、社会復帰を果たした彼は、社会が少年犯罪を考えるために自らの体験を社会に提出する義務もあると思います。
 彼の手記には今にいたるも彼自身が抱える幼さや考えの甘さもあります。しかしそれをも含めて、加害者の考えをさらけ出すことには深刻な少年犯罪を考える上で大きな社会的意味があると考え、最終的に出版に踏み切りました。

 本書の出版がご遺族の方々にとって突然のことであったため、あの事件をようやく忘れようとしているご遺族の心を乱すものであるとしてご批判を受けています。そのことは重く受け止めています。
 私たちは、出版を検討するにあたり、その点を意識しなかったことはありませんでした。本書がその内容よりも、出版それ自体の反響として大きくマスコミに取り上げられるであろうことや、それによって平穏へと向かいつつあるご遺族のお気持ちを再び乱す結果となる可能性を意識しました。
 それを意識しつつも、なお出版を断念しえず、検討を重ねました。
 出版は出版する者自身がその責任において決定すべきものだと考えます。出版の可否を自らの判断以外に委ねるということはむしろ出版者としての責任回避、責任転嫁につながります。
 出版後、ご批判の声が多数届いています。同時に「少年Aのその後が気になっていたので知ることができてよかった」「自分の息子が将来加害者の側になるのではないかと心配している。少年Aの心の動きを知ることができて参考になった」等のご意見も多数いただいています。
 私たちは、出版を継続し、本書の内容が多くの方に読まれることにより、少年犯罪発生の背景を理解することに役立つと確信しております。
 ご遺族にも出版の意義をご理解いただけるよう努力していくつもりです。

2015年6月17日
株式会社太田出版
代表取締役社長 岡 聡

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