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百田尚樹

百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。人気番組『探偵!ナイトスクープ』など放送作家として活躍。2006年『永遠の0に』(太田出版)で作家デビュー。『聖夜の贈り物』『ボックス!』(いずれも太田出版)、『風の中のマリア』(講談社)、『モンスター』(幻冬舎)など多彩な執筆活動を展開し読者の熱い支持を集めた。いま最も期待される作家である。最新刊は『リング』(PHP研究所)。

松田哲夫

松田哲夫(まつだ・てつお)
1947年、東京生まれ。1970年、東京都立大学を中退し筑摩書房に入社。数多くのヒット作を手がけた後、現在は顧問を務める。著書に『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)、『「王様のブランチ」のブックガイド 200』(小学館101新書)など。

INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW 04

2010/04/09 17:00 INTERVIEW

聞き手:松田哲夫 写真:辺見真也

第4回
百田尚樹、ボクシングを語る

松田
大学のボクシング部に入部されて、
それで何年間やられたんですか?
百田
1年から3年の終わりまでやりましたから、
丸2年半ぐらいですか。
松田
大学3年までボクシングをおやりになって、
そこでピタッとやめられたんですか?
百田
そうですね。
この辺がトップに立てる人間と
そうじゃない人間の差だと思うんですけど、
結局ホントにボクシングが強くなる人間っていうのは、
ボクシングがとことん好きなんです。
放っておいてもボクシングをやってる。
私もボクシングは非常に好きでしたけど、
やっぱり他にもしたいことがあるし、
しんどいときはロードワークはイヤやなとか、
今日は練習サボって女の子と遊びに行きたいな、
というのもあるんですよ。
でも、ホントにボクシングが好きなやつは、
朝から晩までボクシングなんです。
このあたりの気持ちは『ボックス!』にも
書いていますね。
松田
『ボックス!』を書いて、
昔のボクシング仲間に何か言われませんでしたか?
百田
「すごい面白かった」
「ようこんなん書いたなあ」って言われました。
松田
実際にかなり取材もされたんですよね?
百田
そうですね。
大阪が舞台なんですけど、
大阪の有力高校を何校も回って、
予選、大会、国体にも行きましたね。
いまもカメラもすごく優秀になって、
生の迫力をかなり伝えられるようにはなってますけど、
やっぱりリングサイドでボクシングを見ると、
グローブが人の顔を打つ音、
人の腹を打つ音、これを間近に聞くと
ちょっとゾッとする迫力があります。
改めて思ったのは
「人間がやるスポーツじゃないな」と(笑)。
松田
(笑)。でも、ご自分は、
それをやってらしたわけですよね。
百田
もう、いま思うと無謀なことしてたなと思いますよ。
タイムマシンがあったら絶対止めてますよ(笑)。
松田
『ボックス!』の最大の魅力は
アマチュアボクシングのルールやテクニック、
試合の迫力がリアルに伝わってくるところで、
それが読んでいてすごく新鮮だったんですね。
そこはお書きになるときに工夫というか、
苦労されたんではないかなと思うんですけど。
百田
そうですね。
実際にボクシングは1秒間に
数発のパンチを繰り出す。
それもムチャクチャに繰り出してるわけじゃなくて、
そこにはすごいテクニックがあるんです。
2本の手で相手を殴って、防御するわけですから、
ホントに一瞬の間に
攻撃と防御が様々なされてるんですね。
『ボックス!』でそれを文章化するとき、
その1秒間に起こった複雑怪奇な動きを
全部書いてやろうと思ったんです。
それを実際に読むと何秒もかかるんですけど、
その瞬間的な1秒ぐらいの出来事を、
まるでスローモーションのように全部書いた。
そうすると、やっぱり文章の力というのは
すごくて......別に僕の文章がすごいのではなくて、
文章というものの力がすごいんですけど、
ちゃんと読者は自分の脳みその中でイメージを作って、
それをスピードアップして映像化できるんですね。
松田
早回しして。なるほど。
でも、それは百田さんが読者の脳に作用する
文章を書いているってことなんじゃないですかね。
百田
ありがとうございます(笑)。
松田
それは放送作家としてやってこられた訓練とは、
また別の要素のような気もしますね。
百田
そのへんは自分でもよくわかりませんけど、
自分がボクシングのシーンを書くときには、
ホントに極端なことを言うと、
一旦目をつぶってボクシングの闘う映像を
浮かべながら書きますね。
松田
僕ら素人からすれば、
一瞬の間に何かが起きて選手が倒れたり
ガクッときたりしてる姿が見えるだけなんですよね。
その瞬間に何が起きたのかスローモーションで
見てみましょうって言われても
「ああ、ここでパンチが当たってるな」
ぐらいはわかりますけれど、
『ボックス!』を読んでいると、
右が利き腕だとすると
左でフェイントかけて右でパンチを出すという
コンビネーションの動きなんかが、
すごくリアルに見えてくるんですね。
それは、やっぱりすごいなって思います。
百田
ありがとうございます。
実際ボクシングは左右対称のスポーツではなくて、
相手に対して体を半身に構えて、利き腕を後ろ、
利き腕じゃないほうを前にして、
利き腕じゃないほうで
様々に相手を牽制しながら右を打つ。
この基本の動きをつかむだけで、
ボクシングの見方はかなりわかるようになりますよ。(その5に続く)
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