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百田尚樹

百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。人気番組『探偵!ナイトスクープ』など放送作家として活躍。2006年『永遠の0に』(太田出版)で作家デビュー。『聖夜の贈り物』『ボックス!』(いずれも太田出版)、『風の中のマリア』(講談社)、『モンスター』(幻冬舎)など多彩な執筆活動を展開し読者の熱い支持を集めた。いま最も期待される作家である。最新刊は『リング』(PHP研究所)。

松田哲夫

松田哲夫(まつだ・てつお)
1947年、東京生まれ。1970年、東京都立大学を中退し筑摩書房に入社。数多くのヒット作を手がけた後、現在は顧問を務める。著書に『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)、『「王様のブランチ」のブックガイド 200』(小学館101新書)など。

INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW 09

2010/05/14 17:00 INTERVIEW

聞き手:松田哲夫 写真:辺見真也

第9回
友人のために頑張れる男
本当の強さとは何か?

松田
百田さんが作品に向かうときというのは、
あるストーリーと言うか、
全体の流れは見えた上で書かれているんですか?
百田
はい。
一応オチまで見えてないと書けないので。
『ボックス!』に関しては、ホントの意味で言うと
「書きたい!」と思ったのは最後の2試合なんです。
この2試合を書きたいがために、ずっと頭から書いてて。
松田
鏑矢と木樽と稲村ですね。
百田
そうですね、その3人。
タイプとしては鏑矢のように、
そんなに繰り返さなくても掴めちゃうタイプと、
木樽みたいに何度も何度も体に覚えさせて
できるようになるタイプですよね。
キレイな型にハマって、
その型にハマったら強いというボクサーがいる一方で、
鏑矢には型そのものがない。
そんなボクサーもいるんです。
逆に型が非常に決まったボクサーというのは、
自分の型にハメるとすっごく強いんですけど、
その型を壊されると急にモロさを出すときもあるんですね。
松田
じゃあ、最後に闘う3人以外で百田さんが気になるというか、
ボクサーとして好きなキャラクターはいますか?
百田
ボクサーとしては、
この3人に集約させて書いたところがあるんですけど、
先輩部員たちがボクシングを始めた理由であるとか、
ボクシングを続ける理由なんかについては、
いろいろ取材して高校生を見たり、
あるいは30年前の同僚や先輩の姿を思い出して
書いたところもありますから、
それぞれ思い入れはありますよね。
松田
そこも魅力のひとつですよね。
百田
ありがとうございます。
実は『ボックス!』について書いてある
ブログなんかを見ていると、
やっぱり鏑矢派と木樽派に別れるんです。
面白いのは男性ファンは木樽派が多いんです。
で、女性ファンはどちらかというと鏑矢ファンが多い。
松田
まあ、鏑矢みたいな男は滅多にいないですからね(笑)。
女性からすれば、やっぱり理屈抜きにカッコイイ
ってことなんでしょうね。
百田
そうですね。
女性は鏑矢ファンが多い。
僕は『ボックス!』を書くにあたって
ボクシングの魅力を伝えたかったこともあるんですけど、
物語を通して「才能とは何か?」「努力とは何か?」、
もうひとつ「本当の意味での強さとは何か?」という3つを、
すごく書きたかったんです。
目に見える才能、たとえば何かを10人にやらしたら、
すごく上手いヤツ、最初からささっとやるヤツがいる。
そいつが一番見えやすい才能なんですけど、
でも才能って、それだけやないんですね。
ホントに複雑なもんがいろいろありますから、
決して最初から上手いっていうのだけが才能でもないんです。
松田
やっぱり木樽がいて、木樽がものすごい刺激になって
鏑矢を引き上げていくという部分もあるわけですよね。
やっぱり鏑矢ひとりだったら、
たぶんボクシングを続けてないかもしれないですよね。
百田
そうですね、はい。
ボクシングは非常に孤独なスポーツなんですけど、
たったひとりでは、その孤独に耐えられない。
松田さんがいみじくもおっしゃいましたけど、
鏑矢は木樽がいなければ、
あそこまでの復活はなかったと思うんです。
実は私が思うに......自分で書いていながらですけど、
鏑矢っていうのは、非常にある意味弱い人間なんですね。
強いは強いんですけど、彼には一方で、
すぐにポキッと折れちゃうような弱さがある。
その弱さは何かと言うと、
すべてにおいて楽なほうに流れてしまうところなんです。
人間誰でもそうなんですけど、一方の木樽というのは、
鏑矢にはない強さがあって、
だからこそ、本当の困難に立ち向かえるんです。
木樽には自分で目標を立てて、
その目標に向かって努力できる強さがある。
鏑矢は目標は立ててるんやろうけれど、
そこに向かって努力できる強さがない。
でも鏑矢は、自分のためにはできないけれど、
友人のためには頑張れる男だったんですよね。(その10に続く)
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<次回告知>
次回更新は5月21日(金)です。お楽しみに!

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