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文・写真=藤岡美玲 写真=ニコ・ニコルソン *「ぽこぽこ」掲載当時の記事を移設公開しました

ニコルソンの実家は、宮城県の山元町。東日本大震災のあの日、この町は未曾有の大津波に襲われました。「ぽこぽこ」にて実家再建エッセイを連載中のニコさんに、山元町のことやニコ家のことを伺ってきました。山元町の取材レポートと一緒にどうぞ。

3月11日のこと

▼山元町レポート
2011年12月某日、新幹線で仙台駅に到着。とても良い天気です。今日打ち合わせをする三井ホームさんは、仙台駅の近く。間取りの提案をいただいたり、補助金の説明をしてくださったりしました(詳細は今後の本編に譲りますが、かなり前途多難な感じです)。
母ルソンさんの運転で、母ルソンさん&婆ルソンさんが住む仮設住宅に伺いました。人里離れた高台にあり、「ドラクエの最初の村みたいな雰囲気」(byニコさん)です。
ちょうど、防寒のため玄関を二重にする工事中でした。手遅れ感があるくらい寒かったです……。

―――2011年3月11日、何をしていましたか?

ニコ (『ナガサレール イエタテール』の)第1話で書いたとおりですが、締切に追われながら、その合間にジムに行って、そこで知らないおばさんを腰につけて揺れてました。どこが震源かも分かりませんでしたが、前日に何度か宮城県沖の地震があったので、「もしこれで震源地が宮城だったらやばいぞ」って。急いで家に戻ってテレビで確認したら、案の定宮城で……。まだ津波は来てなくて、NHKで「3メートルくらいのが来る」って言ってたのかな。3メートルなんて、堤防でパシャンて跳ね返せるだろうと思って。母ルソン(ニコさんの母)も婆ル(ニコさんの祖母)もそう思っていて、家に帰って呑まれたという。

―――ちなみに、その時「うんこちんちん」と描こうとしていたのは、なんの原稿だったんですか(笑)?

ニコ 「デジモノステーション」で『オトナ☆漫画』というマンガ紹介コラムの連載をしているんですが、榎本俊二先生の子育てマンガ(『榎本俊二のカリスマ育児』)を紹介していて、それで……。榎本先生なので、シモネタは必須じゃないですか、肝じゃないですか(笑)。シモネタのない榎本作品なんて、モツが入ってないモツ鍋ですよ(好物のレバ刺しと共に注文したモツ鍋を指して力説)。そこは描かねばならないと思って描いた次第です。その後、震災で色々なところががナーバスになってしまって、よりピリピリしていたせいもあると思うんですが、見事に編集長チェックでボツをくらいました。その電話がちょうど生存確認の電話を待っている時にかかってきて。「はい、直します」って、家に帰ってセリフを変えました。

―――震災後に、描いてはいけないことって増えましたか?

ニコ 波に呑まれるとか。溺れるっていうのも、池でもダメでしたよ。実際現地の方々は、全然気にしないというか、そんなこと気にしてる余裕もなかったと思いますが……。

―――「こういうことを気にする人がいるはずだ」って言う人のことを気にする、というループがあるような気がしました。

ニコ 見当違いの優しさな感じはしますよね。でも、この前『崖の上のポニョ』を見て、これはちょっと……描写が上手いだけに、波に呑まれた経験がある人は怖いって思うんだろうなって。だから、気を遣うのも間違ってはないと思うんですけど。


〈プロフィール〉

ニコ・ニコルソン
ニコ・ニコルソン

宮城県亘理郡山元町出身のマンガ家/イラストレーター。
宮城県の専門学校卒業後、「東京で就職が決まった」とうそをついて上京し、2008年に『上京さん』(ソニー・マガジンズ)でデビュー。著書に『ニコ・ニコルソンの漫画道場破り』(白泉社)、『ニコニコ妖画』(講談社)、『ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画』(エムオン)などがある。2013年3月11日発売の『ナガサレール イエタテール』(太田出版)は、東日本大震災で津波被害を受けた実家を再建するまでを描き、16回文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品に選ばれた。2017年3月発売の新刊『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、は、再建した家に新しい家族「ヌ太郎」を迎えたニコ家を描いた、注目の描き下ろしエッセイ。