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スペシャル

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文=柴那典 ※本企画はcakesで公開された記事を再録したものです。

ゼロ年代のインターネットから生まれた熱気とエネルギーをドキュメント、エモーショナルに描き切った話題沸騰のボーカロイド音楽史『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』の大ヒットを記念して、著者・柴那典さんが本書の読みどころを"音源"付きでご紹介! ニュー・オーダーの名曲「ブルー・マンデー」からryo(supercell)の「ODDS & ENDS」まで、もう読んだ人もこれから読む人も、本書に登場する名曲たちを爆音で聴きながらお楽しみください!!

「新しい文化が生まれる場所の真ん中には、
インターネットと音楽があった。」

“聴きながら読む”ための
YOUTUBEプレイリスト
side-A
第1~4章 初音ミク前夜
side-B
第5~終章 ボーカロイドシーン
※ぜひ音楽を流しながらお読みください!

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』という本の表紙には、そんなキャッチコピーを書きました。

ボーカロイドを巡る状況がこれだけ大きなものになっているのに、僕も含めた音楽を批評する側の人間が音楽史を踏まえて、ボーカロイドの現象の核を語ることを怠っているように思えた。それがこの本の執筆の動機の一つです。

本書の中で、初音ミクが誕生する前にあったポピュラー音楽と2007年以降に生まれたボーカロイドの楽曲をたくさん紹介しています。

その楽曲をYouTubeを使って紹介しながら、それぞれの章の概要を紹介していきたいと思います。

第1章
初音ミクが生まれるまで
 × ニュー・オーダー

chapter1-index
二〇年前からずっと繋がっている 028
それは三行広告から始まった 031
MIDIとDTM文化の登場 034
初音ミクに受け継がれた名機「DX7」 038
ベッドルーム・ミュージシャンたちの静かな楽園 040

ニュー・オーダー「ブルー・マンデー」

この章は、初音ミクの「生みの親」であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下クリプトン社)の伊藤博之社長のインタヴュー取材をもとに構成しています。60年代以来のロックやポップ・ミュージックの歴史とボーカロイドの歴史を繋げ、21世紀の音楽カルチャーに初音ミクが果たした役割を語るためには、まずは「生みの親」の考えを訊かないと、話が始まらない。そういう思いをもとに北海道にある同社を訪れました。

クリプトン社は1995年創業。もともとサンプリング音源の販売からスタートした会社です。もともと伊藤社長自身が一介のアマチュアミュージシャンで、自分の作った音色やフレーズの素材を売ろうと考えたことが、ビジネスの最初の始まりでした。

80年代、シンセサイザーやMTRやサンプラーが普及して宅録やDTMの文化が生まれた頃の時代に大学生だった伊藤氏。なかでも影響を受けたのがニュー・オーダーだったそうです。

初音ミクのルーツには、シンセサイザーやサンプラーの普及が巻き起こしたDTM文化がありました。よく見ると、初音ミクの身体には80年代に一世を風靡したデジタルシンセ「DX7」のデザイン要素が散りばめられています。そういうところにも、DTM文化へのリスペクトが現れているわけです。

第2章
ヒッピーたちの見果てぬ夢
 × ザ・フォーク・クルセダーズ
 × sasakure.UK

chapter2-index
六〇年代に生まれた音楽家の「遊び場」 044
「帰って来たヨッパライ」が日本のロックを変えた 048
「サマー・オブ・ラブ」とは何だったのか 054
ヒッピーカルチャーとコンピュータ文化を繋いだ男 062
セカンド・サマー・オブ・ラブとレイヴの時代 068

ザ・フォーク・クルセダーズ『帰って来たヨッパライ』(映画予告編)

初音ミクが生まれた背景にはDTM文化の土壌がありました。では、60年代の音楽シーンと初音ミクを結ぶ線を引くことはできるのか。それを探っていったのがこの章です。

伊藤社長に紹介いただきインタヴューで登場いただいたのは、エレックレコード株式会社の社長・萩原克己氏(取材でお会いしたのは2013年7月ですが、その後10月に急逝されました。心よりご冥福をお祈りします)。1969年に設立され、吉田拓郎や泉谷しげるなどを輩出して70年代のフォーク・ロックの時代を支えた伝説のレーベルの代表です。

萩原氏は「日本のロックを変えたのは加藤和彦だった」と言います。その後サディスティック・ミカ・バンドやソロなど様々な活躍を見せた加藤和彦が、ザ・フォーク・クルセダーズとして「帰って来たヨッパライ」でデビューしたのが1967年のことでした。

無名の学生バンドだった彼らを一躍スターダムに押し上げ、同名の映画も制作されるほどの記録的なヒットとなったこの曲。その人気のきっかけになったのが、同年に始まったラジオ番組「オールナイトニッポン」でした。2007年に生まれたニコニコ動画がそうであったように、1967年のラジオ深夜番組は、まっさらな新しい「若者たちの遊び場」だったのです。

そして、加藤和彦はザ・フォーク・クルセダーズ解散後の1968年、サンフランシスコに向かいます。そこはまさに「サマー・オブ・ラブ」最盛期の場所でした。本の中では、そこで生まれたヒッピーカルチャーとインターネットとの繋がりについても触れています。

sasakure.UK「トゥイー・ボックスの人形劇場」

また、この章ではU/M/A/A.incの弘石雅和社長にも登場頂きました。現在sasakure.UKなど様々なボカロPやネット発のアーティストの作品をリリースしている同社は、音楽業界の中でもいち早くボーカロイドのシーンに乗り出したレーベルの一つ。

その代表である弘石氏は、80年代のイギリスで勃発したクラブ・ミュージックのムーブメント「セカンド・サマー・オブ・ラブ」の熱気を現地で体感した数少ない日本人のうちの一人です。その後もケン・イシイやブンブンサテライツを担当するなど日本のテクノやクラブミュージックを現場で支えてきた同氏に、80年代と00年代の音楽シーンに共通するものを語っていただきました。


〈プロフィール〉

柴那典

しば・とものり。1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンで『ROCKIN’ON JAPAN』 『BUZZ』 『rockin’on』の編集に携わり、その後独立。雑誌、ウェブメディアなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー・記事執筆を手掛ける。主な執筆媒体は『ナタリー』 『Real sound』 『ミュージック・マガジン』 『クイック・ジャパン』 『CINRA』 『NEXUS』など。本書が初の単行本となる。

ケイクス(cakes)

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