お笑いテレビ裏方稼業⑦「柳田さん!この女の子が、言うてた“整形オッケーの子”ですわ!」
お笑いテレビ裏方稼業

お笑いテレビ裏方稼業⑦「柳田さん!この女の子が、言うてた“整形オッケーの子”ですわ!」

すっかり本職を忘れた俺は、この撮影現場でインタビュー取材を敢行。
「取材」といっても、ここで得た情報を、どこかにアウトプットするわけではない。好奇心の趣くまま、丁寧な関西弁を使いながら異業種の怪物たちに挑む。
但し、そこには何の職業差別や偏見は微塵もない。あるのは、自分が理想とするテレビ制作への反映。「笑い」へ繋がるヒントをひたすら追い求めるだけだ。

テレビの裏方稼業。その上下関係(ヒエラルキー)は、基本「年功序列」である。只、その根本には芸能界と同じく“売れている”“売れていない”ありきの年功序列システムがある。つまり『旬』や『流行』に左右されやすい浮き草稼業である。しかし、「旬」の移り変わりが異常に早いAV女優の秩序や組織は、まさに水商売。浮き草が一本も根付かない世界。厳しさは俺たちの比ではない。

AV女優は3種類【1単体、2企画単体、3企画】に分類される。
「単体」というのは、その女優が出演すると言うだけで、名前だけでヒットが見込めるような存在。特定のメーカーと本数契約をするため、たいていの場合はプロダクションに所属。短期間で莫大な稼ぎが期待できるものの、その数はほんの一握り。テレビで活躍する芸能人ともっとも近いポジションに位置する。
芸能人に例えるならば、ゴールデンタイムに冠番組が持てるクラス。

「企画単体」とは、単体に一歩届かない二番手のAV女優のこと。
特定のメーカーと契約することはなく、ギャラも一日単位で計算し支払われる。
中には、出演本数を重ねるうちに人気が出ていき、大きく稼ぐ女優もいる。
芸能人に例えるならば、レギュラーはないが特番で重宝されるひな壇芸人。

そして、AV業界を支えている“無名の女優たち”が属す「企画」と呼ばれる種族。そのほとんどは事務所に属さないフリーで、一日単位のギャラで働く。
もちろん、名前が世間に通っていない分は、過激な内容と勢いでカバー。
いわば、アルバイト感覚でやっている通りすがりのAV女優である。

…その様は、まさしく“光り輝く芸能界の縮図”
90年初頭のテレビ業界が「タレントのネームバリュー」よりも「過激な番組企画」にスポットが当てられスタジオ企画が縮小されたこの頃、AV業界でも「企画単位」が花盛り。どこの業界も、バブルがはじけまくり。
視聴者に提供する以前に「不景気」と戦っていた。

只、芸能界と大きく違ったのは“タレントギャラ”のヒエラルキー。

なんとなく「単体」がもっとも稼いでいるのかといえばそうではないらしい。
というのも、単体女優は専属のため、撮影本数が少なめ。
つまり、所属事務所が仕事量をセーブしながら仕事内容を選んでいるらしい。

一方、「企画単体女優」は、1本あたりの単価が下がる(単体の半分以下)が、いろんなメーカーの作品に出演できるため、(売れっ子ともなれば、1カ月に20本出演する強者もいた)月収にすれば、500万クラスも珍しくないらしい。
つまり、稼ぎだけでいえば「単体」よりも「企画単位女優」が上なのだ。

で、もっとも辛い立場が「企画」と呼ばれる身元保証人がいない素人女性。
1本あたりの単価は「企画単体女優」の3分の1程度。
「単体」の10分の1以下の報酬しかもらえない世界らしい。

しかも、特殊な性癖を持つ男性ファンのニーズを満たすのが仕事のため
(90年代初頭では)一カ月2本~3本が限度。
現在はもっと増えているだろうが、当時はAV女優だけでは生活が成り立たないため、本職は某大手企業に勤務する会社員やフリーターの女性たちが アルバイト感覚で出演。風俗嬢への登竜門的なポジションであった。

…厳しい世界やなぁ。

余計なお世話だが、「なぜ?AV女優をしているのか?」という素朴な疑問があった。これまで、風俗店の三行記事をとる事を生業にしていた事があった経験上 さほど難度が高いことでもないハズであった。

だが、次の瞬間 鮫の一言に我が耳を疑った。
「柳田さん!この女の子が、言うてた“整形オッケーの子”ですわ!」

すると先ほどまで、二台のカメラ前で大股を開いていた企画女優。
田淵幸一のような見事な放物線を描いていた小柄な女の子はコックリ頷いた。

…言葉を失った。

…こんな子をテレビに出したら、番組が終わってしまうやないか。

だが、鮫はひとつも悪びれた風もなくこう付け加えた。

「柳田さん!さっきの潮吹き、見た? ホンマ最高でしたなぁ~!
 アレ見て、ワシ、昔、映画館で見た“黒澤明の用心棒”を思い出しましたわ。
 ドバァ~とごっつい勢いで、吹いてましたなぁ~。ガハハハハ!」

…コイツは、ホンマにどうしょうもないアホや。

確かに俺も頭は決して良くはないが…鮫に比べれば“人並みの常識”はある。

もう、これで終わりだ。
一秒でも早く恵比寿の事務所に戻って仕込み直さないと…。

土下座も、殴り倒される事も、何も怖くはなかった。
ただ、ここから逃げれば帰る場所がない。それだけが怖かった。
何処にも属さずに、テレビマンになることは不可能だった。

                       (つづく)


■著者プロフィール/柳田光司
1968年生まれ。本業は『放送作家』
現在『あの頃の、昭和館』という映像・音声ブログを配信中。
その中の音声コンテンツ『現代漫才論(仮)』では企画~出演~編集もやっています。

これまで、いろいろ照れがあり…何ひとつ外に出していませんでしたが…。
今はもう、そんな自分がアホらしくなり 精力的にアウトプットしていきます。
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