お笑いテレビ裏方稼業⑧ 「さぁ、そいじゃ一発いくか!」
お笑いテレビ裏方稼業

お笑いテレビ裏方稼業⑧ 「さぁ、そいじゃ一発いくか!」


帰りたい。帰れない。仕込みたい。仕込み直したい。なのに足が動かない。
密室は、まるで異次元であった。
だが、撮影現場は活気に満ちあふれていた。

すべては、「娯楽」のため。決して「エンターティナー」と呼ばれる華やかさはなかった。が、皆、真剣だった。

当時、未だ発展途上の段階にあった「潮吹き(通称・潮)」
当たり前だが、大量の潮を吹くためには、大量の水分が必要となる。
カメラを回す直前まで、AV女優は何本ものミネラルウォーターを飲みながら
スタンバイする。量にしておよそ4リットル~5リットル。中には、水だけを
摂取し過ぎて水中毒に陥る者、撮影後には病院へ運ばれる女性も多かった。
俺と同じ低い身分の撮影助手(通称・小僧)はそんな状況を防ぐため腰に下げた小物入れにカロリーメートを山ほど詰め込み待機していた。

トイレ横にあった小さなバスルームの洗面所では、その頃主流であった「疑似精液(通称・ぶっかけ)」を「小僧より下の見習い(通称・君)」が薬剤師のように作っていた。今考えると、リアリティーに欠けるその材料の正体は「卵白」と「練乳」。いつ逃げ出してもまったくおかしくない「君」は素早い手つきで卵白と黄身を切り離し、牛の顔が描かれたチューブ入りの練乳を絞り出していた。

「君、しっかりと“黄身”を取り除けよ!ダハハ!」
この業界では、定番の監督ギャグらしい。
だが、その監督のダジャレに反応しているのは浅黒く日焼けした男優だけ。
女優はそっぽ向きながら、当時流行り出していた大型の携帯をいじっていた。
「君くんさぁ、その黄身、残しておいてくれない?」
「は、は、はい!!」
「昔さ、オロナミンCのコマーシャルであったじゃん。
 卵の黄身とさ、オロナミンCを混ぜ合わせてさ、オロナミンセーキって」
「あった!あった!」
「アレさ、一度飲んでみたかったんだよなぁ~」
「え?初めて?何?それ?」
「ガハハ!撮影終わってから飲むからさ」
「それじゃ意味ないじゃん」
「あっ、そうか。ガハハ!」
――終始、この調子。密室のお祭り。一夜の宴だった。
男優さんは、初対面の俺に対しても細かい礼儀が行き届く優しい人だった。

コンビニの割り箸で納豆のように混ぜられた“ぶっかけ”は、STAP細胞の小保方さんが割烹着姿で使っていたような長いスポイトに次から次へと吸い込まれていく。なぜか?その行為がとてつもなく淫靡なものに感じられた。

これが、世間知らずの学生時代のことなら“ファンタジー”が崩れる瞬間であったのだろう。だが、俺はもうすでに世間を知り始めていた。
それまで夢中になっていた蒼い時代の思い出と訣別するため彷徨い続けていた。

風俗嬢やAV女優が、貶められたり、美化されるのも、的外れな見解である事。彼女らは皆一応に仕事としてやっているだけの事。
そのくせ、体を張って稼いだゼニをホストに吸い上げられる事。
一度踏み外した道には、滅多な事では戻れない事。生きて行くことにはどん欲なのに。生きること、生かされる事には鈍感である事。
「潮」は、尿ではなく女性前立腺という組織から分泌される液体である事。

…よってこれらに関する男と女の事情や下ネタは、酒場ではご法度だという事。いたって不毛な会話である事も悟っていた。

…だが、実際に撮影現場を見たことはなかった。
いったい、どうやってあの映像は撮影されているのか?
せめて、それだけでも体感しておきたかった。

さすがの「鮫」も、じっと押し黙って祭りの裏舞台を見ていた。

ようやく準備が整ったようだ。
撮影本番前にこれでもかという程、水を飲んだAV女優は小さな浴槽につかり
漏れる寸前まで尿を溜めている。「さぁ、そいじゃ一発いくか!」男優は自前のガウンを脱ぎ捨てソファーに向かう。真っ裸になった男優のペニスはいつの間にか?破裂しそうなくらい上に反りかえっている。撮影再開。物語はエンディングを迎えようとしていた。浴槽から上がって来たAV女優が小走りにソファーに向かってなだれ込む。すでにカメラは回っていた。

男優の右手中指と人差し指とペニスで女を塞ぐ。
今にも、あふれそう。吹き出しそう。限界ギリギリの尿意。
男優は、こぼれそうな女の尿道に強い圧をかけ続ける。
その様は、いつか見た戦争映画のワンシーン。
敵機に襲撃されながら、モールス信号でSOSを送る力強さ、
砂漠にある井戸から、太い水脈を掘り当てたような男の表情。
眉間に深い皺を寄せた女の声は、もはや野獣と化していた。

男のポンプがさらに小刻みに動く。女は嗚咽にも似た雄叫びを上げる。
活字に起すのも恥しい言葉で男がささやき、攻めては、また焦らす。
「来たぁ~!来たぁ~!来たぁ~!」男は監督に目線を送る。
塞いだ女の局部が、パンパンに膨れ上がっていくのがわかる。

その状態で、男優がシャンパンのコルクを抜くように二本の指とペニスを一気に抜く。すると、それまで我慢してい尿意。女の自尊心が一気に崩壊。一気に尿が吹き出す。細く小さな穴から噴き出す。本日二度目の田淵幸一の本塁打。
男はそんな非日常の光景でさらに興奮。カジキマグロ用の釣り針みたいな恐ろしくデカイ凶暴なペニスを再びグリグリ挿入する。女もそれをガッチリ受け入れながら自らのGスポットに当たるようにポジションを調整する。
「女」が「雌」になるのが手に取るようにわかる。

その時、監督が男優の背後に回った。
手には、疑似精液の入ったスポイトを持っている。
「待て、待て、待て…」監督は男優をなだめながら、カメラマンに指示を出す。
「カメラ、回って、回って、女のアップ!もっと寄って!もっと寄って!」
すべてがジェスチャー。阿吽の呼吸である。気がつけば、男優がスポイルを女優の股間に注入しながら、腰をフル稼働。ロータリーエンジンのように円を描くように突いては、引き、突いては、引いている。女の吐くあえぎ声が鼻にかかり出し、焦点が定まらなくなっている。「どこがいいの?どこが気持ちいいの?」何の前触れもなく女は、いきなり昇天。JB(ジェームス・ブラウン)のような、シャウトを決めた直後、ぐったりなってしまった。女は紛れもなくAV女優ではなく、限りなく素人に近い女性であった。

「は~~~い、カットぉ~~!!」

気づけば、すべてが丸く収まり終わっていた。

現場では、何ごともなく撤収作業が開始。

男優は射精をしないまま、「でした、でした」と現場スタッフに一礼。
女に別れも告げずに、あっさりと仕事場を後にした。

この時、心に誓ったことがある。
「同じ映像の仕事でも、俺にはAVの仕事は無理。素養の欠片もない。
 AVは観て楽しむだけにしょう。でもたまには撮影現場を見学し、
彼らのプロ意識を感じたい。でもこの日見た事は20年は黙っておこう。
それ以降はもう時効だ。…おそらく時代も、自分自身も変わっているだろう」

俺のテレビ裏方稼業はまだ、はじまったばかりだ。

                           (つづく)

■著者プロフィール/柳田光司
1968年生まれ。本業は『放送作家』
現在『あの頃の、昭和館』という映像・音声ブログを配信中。
その中の音声コンテンツ『現代漫才論(仮)』では企画~出演~編集もやっています。

これまで、いろいろ照れがあり…何ひとつ外に出していませんでしたが…。
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