クイック・ジャパン編集部ブログ

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QuickJapan77号Perfume特集おまけ座談会 3

2008.4.23

QuickJapan77号Perfume特集おまけ座談会
夢はまだまだ終わらない!――Let's talk about Perfume&GAME! 3

 「中年」と呼ぶには早すぎるけど、「若者」と呼ぶには無理のある男たち(吉田大助・30歳、さやわか・32歳、藤井直樹・29歳)が、Perfumeについて熱く語り合う座談会。第三章となる今回は、オリコンのデイリーチャート1位に輝き、各方面で話題のニューアルバム『GAME』を取り上げます。

◆第三章 『GAME』

さやわか(ライター)×吉田大助(ライター)×藤井直樹(本誌編集長) 記録係:増田桃子(編集部)

■リスナーが音楽を自由に楽しめなくなってる

さやわか 『GAME』を語る前にちょっと触れておきたいんですけど、僕は昨年、安室奈美恵のアルバム『Play』にとても驚いたんです。というのも、安室奈美恵はどこまでいっても「芸能人的に大衆から消費される」というイメージがついて回る存在で、それが「アーティスト」にとどまらない彼女の素晴らしさだと思うんですけど、そういう立場にありながら、平気な顔でものすごく音楽的にこだわったアルバムをリリースするんですね。アルバムだけじゃなくて、カバー曲「WHAT A FEELING」(映画『フラッシュ・ダンス』のテーマ曲)が収録されてるシングルもオリコン1位にしてしまう。
藤井 最近の安室奈美恵はすごいですよ。再評価とか、そういう凡庸な言葉では表現できない、凛としたしなやかさと芯の強さを感じさせてくれる。
さやわか アルバムにしてもシングルにしても、言ってみれば音楽をマニアックに聞いてる人とか、音楽評論家が喜びそうな音なんです。だからこそ「うわ、この内容でオリコン1位を取れるんだ」って思ったんだけど、同時にそういう文脈で驚いてしまう自分もどうなんだろう、と。だって、これって「オリコンで上位になるようなものは『本物』じゃないんだ」という固定観念に囚われているんですね。でも「このマニアックな音楽をいかに大衆に届けるか」みたいなことを、おそらく安室奈美恵は考えてないでしょう。それと同じ姿勢が『GAME』にはあるし、「いいものだから、それをやります」というプライドを感じるんです。zadan_amu.jpg
藤井 同感です。Perfumeってやたらと戦略とか、事務所やレコード会社が「仕掛けてる」って言われるんだけど、そりゃビジネスなんだからいろいろ考えるのは当たり前なんですよ。しかしこれまでのPerfumeの活動を振り返ると、「売りたい」というのはあっても「売るためにこうしよう」ってのが希薄で、むしろ「良いものを作れば売れる」っていう古典的な作品至上主義で動いてるフシがある。
さやわか 僕が安室奈美恵を持ち出したのも、ある雑誌で「Perfumeみたいなものはアイドルの女の子をフロントに付けて、大衆に気持ちよく消費させようとしてるんだ」みたいなことを言っていたからなんです。いや、売り方をどうこうってのもわかりますよ。わかるんですけど、そういう見方をし始めたらどんな音楽も「商売として上手いか下手か」って話になるじゃないですか。これって音楽の楽しみ方なのか? って悲しく思うんです。
吉田 ああ、これまた文脈だけの話だ!
さやわか 僕は「そうじゃないじゃん、好きならいいじゃん、女の子も好きでテクノも好きならそれでいいじゃん」って思うんですけどね。そういう肯定をしないと何も始まらない。文脈に沿った裏読みがカッコいいみたいな嘘をメディアが喧伝するから、リスナーは「アーティスト」とか「アイドル」の狭間に惑わされて音楽を自由に楽しめなくなってるんですよ!
吉田 その「Perfumeはどうこう」って言った人は、ちゃんと聞いてない可能性がありますよね。サビを聞いただけ、とか。だってPerfumeの音楽を聞けば、これがヤバイってことはすぐ分かるはずだから。例えば、ブレイクのきっかけになったシングルで、ニューアルバムの1曲目に入っている「ポリリズム」とか、歌詞だけで言っても圧倒的に実験的じゃないですか。ラブソングと見せかけながら、ペットボトル1本をゴミで捨てずにリサイクルに回したらほんのちょっと地球環境に優しくできる、その自分ができるほんのちょっとは無駄じゃないし無視しちゃダメっていう、具体的なエコロジーの話なわけでしょ。それを<まるで恋だね>って無理矢理ラブソングに歌っちゃってる。Perfumeを応援するファンの声援とも取れるわけだし、異様に多層的ですよね。もちろん音もすごい。ゼロ年代のJポップ史ベスト10には入る楽曲だと思う。
さやわか そういうマニアックな要素があるからこそ、マニアックだとかキャッチーだとかいう区別を越えていこうっていう姿勢を『GAME』に感じるんですよね。中田さんの方はむしろ意識して越えていってるんだと思うんですけど、3人はナチュラルに越えていってる(笑)。

■意図しない要素の結びつきで歌を楽しめる

藤井 確かにPerfumeの3人は「中田さんが私たちを実験台にしているって指摘があるけど、そういうことでもないかもしれない」って言ってますね。ネタとして自分たちが使われてるっていう状態ではありながらも、そこにヘンな反発心はなくてナチュラルで、結構グッと来る言葉でした。
さやわか あ~ちゃんが言ってた「中田さんも挑戦してるんだよ」っていうのは、ポップミュージックのフィールドでマニアックな音楽を聞かせるっていう俯瞰した視点を持った上での挑戦もあるんでしょうけど、もっと単純に自分の音楽をリスナーに届ける、いろんな場所に届かせるっていうところを挑戦してるんだなって思うんです。だからホントにこのアルバムは売れて欲しい。
藤井 いや売れるでしょう。好き嫌いを超えたことをやってますから。『GAME』が売れなかったら、それこそJポップは終わりですよ。
吉田 『GAME』にはシングルが5曲、アルバムの新曲が7曲入っているわけですけど、シングルの方が飛び抜けてよく聞こえるってことがないですからね。というか、ぶっちゃけ全曲いいってことなんですけど(笑)。ちなみに、藤井さんはどの曲が好きですか?
藤井 1曲だけ選ぶのは難しいけど......「Puppy love」かな。リピート設定にして繰り返し聞きまくってるからなぁ。
さやわか 「Puppy love」いいですね。もう始まった時泣けてきますよね。
藤井 ギターの感じがいいんですよ、あの生っぽさが染みるんですよ。あと、サビの前の疾走する感じね。シャーーーーっていう。
さやわか そうそう、イントロから始まって、のっちが淡々と歌い始めて、シャーーーーって盛り上がってきて、「うわーっ!」「涙がダーッ!」みたいな(笑)。そこがいいですね。いやー、この切ない歌をのっちに歌わせるっていうのは絶妙だなあ。
藤井 これ以外にアレンジのしようがない感じがすごくいい。だって何? この<絶対的な信頼と 対照的な行動 絶望的な運命が ある日恋に変わる>って歌詞は(笑)。
さやわか お約束的というか、気持ちのいい、ベタな落とし方でもあるんだけど、でも「あえて」ベタにやってみました、みたいなところが全くないんですよね。「これしかないから、これ!」っていう。そのへんは中田さんの天然キャラな部分が出てるんだと思うんです。のっちはこの曲はトリっぽくないと言ってましたけど、全然このアルバムのトリになってますよ。最後まで聞くと、「ああいいアルバムだな」って気持ちになれます。zadan_amu.jpg
藤井 僕はてっきりトリに「Wonder2」的なのが来ると予想してたんで、最初こそ「おや?」って感じだったんですけど、今はもう中毒状態。
吉田 なんか聞き終わった後すごい寂しい気持ちになりません? 上がってるがゆえに下がる、みたいな。
さやわか そうそう、微妙に寂しく終わるんですよ。そのさじ加減がいい。
藤井 あと「GAME」はね、ほんとにもうカッコよすぎ。イントロのスネアとバスドラが、そのままバスドラの四つ打ちになだれ込む展開とか、浮遊感を漂わせながらもどかしさを感じさせるメロディ、曲全体の異様な緊張感は、理屈抜きで素直に「カッコイイ!」と思いましたよ。
さやわか カッコイイですね。「Take me Take me」とかもすごくいい。これはテクノとかの、ミニマルなループがだんだん切なくなるって感じがたまらないです。あと、僕は「Butterfly」も好き。三人ともインタビューでは「"美しく"って言われてもできないよ」と答えてますけど、その「できなさ」が歌にでてる。中世からヨーロッパとかに脈々と受け継がれてる由緒正しい変態文化というか、芸術系のロリータものってあるじゃないですか。ポピュラー音楽で言うとシャルロット・ゲーンズブールとかビョークが子供の頃に録音した音源に近いのかな。あと最近のもので最も近いのはイローナ・ミトルセーなんかに近いと思うんですけど、ああいうモンド感と倒錯したエロティシズムに近いノリが、たぶん意図せず出ていて。
吉田 あ、ちょっとわかります。予想外にエロくなっちゃった、みたいな。
さやわか あ~ちゃんがここでフィーチャーされてるっていうのは、なるほど! と思いましたね。曲としてはまず「音がいつものPerfumeっぽくない」ってところに耳がいくんですけど、よく聞くとあ~ちゃんが幼子のようにボケッとしたあどけない感じで歌っている。この幻想的な歌詞をのっちでもかしゆかでもなく、本来なら一番感情を込めて歌うタイプのあ~ちゃんがぶっきらぼうに歌うのが素晴らしいなと。おそらく最初に中田ヤスタカが狙ったモノでもないし、あ~ちゃん本人もそんなこと思ってなかったでしょうけど、意図しない要素の結びつきで最終的にリスナーが歌の解釈を楽しめる、というのがPerfume的だと思いますね。
藤井 曲がどうやって出来上がったのかについて、リスナー側が無理に文脈を持ち出して評論家ぶるんじゃなくて、クリエイティヴに逆算して思いをめぐられることができる。これはPerfumeそのものなんですよ。さっき(第二章)吉田さんが「Perfumeは騙さない」って話をしてたけど、Perfumeは楽曲に妙な仕掛けがないんです。曲の構成が緻密で歌詞が多層的だったりするんだけど、それはリスナーを引っかけようとしてるんじゃなくて、すべてを晒して後はご自由に、ってことなんですね。そういう意味でも「Butterfly」はPerfume的ですよ。
さやわか そうだ、あ~ちゃんはインタビュー中に「Butterfly」を「美しい」って言ったんですよ。他の二人は「美しく」って言ってたので「美しく」に書き変えようかなと思ったんですけど、でも三人同じ事を言ってても微妙にニュアンス違う方が面白いかなと思って残したんです。たぶんあ~ちゃんは他の二人と微妙に違う受け取り方をしているんだなと。

<Part.4に続く>