【対談】上野千鶴子(社会学者)×福田和香子、奥田愛基、牛田悦正(SEALDs) 対話

【対談】 上野千鶴子(社会学者)×福田和香子、奥田愛基、牛田悦正(SEALDs) 対話

  • 2016.07.08
  • 対談日:2016年2月5日@太田出版 text:磯部涼 photo:江森康之 editorial:北尾修一

「上野千鶴子×SEALDs 対話」上野千鶴子さん
SEALDs『日本×香港×台湾 若者はあきらめない』
SEALDs『日本×香港×台湾 若者はあきらめない』
奥田愛基『クイック・ジャパン vol.124』
奥田愛基『クイック・ジャパン vol.124』

「だって、デモしただけじゃん」

上野 一方、ソーシャル・メディアの方には、聞くに堪えないようなセクハラ的な発言がいっぱいあって。ああいうものについてはどう思った? あれは、私たちの時代には決定的になかったものなの。

福田 そういうこと言ってくるひとたちは、そもそも、安保法制とかどうでもいいし、デモとかもどうでもいいし、とにかく、女が何か言ってんのが気に食わないみたい(笑)。

上野 そうだよね。そこは、本当に変わんないんだよな。

福田 いや、ほんと、それしかないんだなと思って。〝右〟とか〝左〟とかどうでもいいんだけど、女が口を開いてるのがムカつくっていう。でも、そういうものは私が気付いてなかっただけで、どうやら、昔からずっとあったみたいで。確かにヘコむしキツいけど、途中からは、いかにしてこいつらの癪に障るようなことをしてやるかっていう感じになって。

上野 おお(笑)。

奥田 ただ、SEALDsのメンバーには他にも女の子がいますけど、僕が知る限り、半分以上はTwitterであまりつぶやかなくなったんですよ。あるいは、アカウントを閉じたか、鍵垢になったか。一方、男たちは結構マイペース。というか、女の子たちほどは攻撃されないんで。

上野 裏返しに言うと、バッシングには発言を抑制する効果が明らかにあったということ?

奥田 そうですね。例えば僕も、高校はいわゆる受験校に行ってないんで、偏差値を揶揄されたり。こいつ(牛田)は音楽をやってるから〝音の出るゴミ〟って言われたり(笑)。けど、これが女性だったらもっとキツいと思う。

福田 SEALDsとか関係なく、今まで意識してなくても「女の子だからこうでしょ」って社会からずっと言われてきてた部分もあるんだと思って。だから、見た目でジャッジされる習慣はずっと生活にねじ込まれてて。ただ、やっぱり、ああいう悪口ですらないようなゴミみたいなものがいっぱい飛んでくることは日常的にはあり得ないから、その習慣が顕著になって、「あ、これだけジャッジされるんだ」って凄く怖くなった。だって、別にデモに行くのに化粧なんかどうだっていいわけじゃん。大きいピアスしてようが、派手だろうが、関係ないじゃん。「そんなこと言うんだったら、男の子のことも言いなよ」って思うし。露骨に女の子ばっかり標的にしてて。だから、私もTwitterを辞めたし(その後、再開)、Facebookもあまり書かなくなったし、ある程度、抑制されてる部分がないわけじゃない。でも、私はこの間までドイツに行ってたんですけど、帰ってきて、改めてそういうのってほんと日本独特なんだなって思ったし、そういうやつは一生そのままだろうからほっとけ、もう知らねと思った(笑)。向こうは勝った気になってるわけで。

上野 ネットでは受信を自分でコントロール出来るじゃない? 私は、Twitterは一切レスをしないっていうポリシーでやってる。そもそも、リプライの通知欄を見ない。ましてや、エゴサーチなんて絶対にしないし。これはぜひ聞きたいんだけど、あなたたちとほぼ同世代の私の学生たちが「エゴサーチしないでいられない」って言うのね。駆け出しの研究者だって、ネット界ではいろんなことを言われてる。でも、ソーシャルメディアの世界っていうのはシャットダウンすれば、見たくない情報は見ないで済むでしょう。それなのに、わざわざネガティヴ情報を取りにいくのはどうしてなの?

奥田 去年の夏、「SEALDsを大きくしよう」っていう時には、頻繁にエゴサーチをやってましたね。賛成意見も反対意見も両方見て、「これは確かに至らなかったな、改善しよう」とか参考にしたり。

上野 どっちが多い? 批判と支持と。

奥田 どこかの時点で変わったんですよね。2016年の7月ぐらいまではポジティヴなものが多くて。それが、8月、あれぐらい大きくなってからはもう……というか、SEALDsの場合、エゴサーチ自体が機能しなくなって。200~300個ぐらいの捨てアカが、自動ツイート機能で「#SEALDs」っていうハッシュタグ付きで大量に……。

牛田 よく分かんない下ネタをいっぱい流したりとかね。

奥田 そうそう。セクシズム満載の、女性が検索して見たらめちゃくちゃダメージを受けるだろうなっていうような。

上野 誰かが組織的にやってるの?

奥田 分からないです。個人でやってるとしたら相当なヒマ人。そういう感じなんで、今はそもそもエゴサーチをしても意味ないという状態ですね。

上野 もちろん、運動体としては自分たちがやっていることへの反応は知っておく必要があるよね。でも、情報を発信するひとって、大抵、ネガティヴなひとじゃない。そもそも、ポジティヴな人はあまり発信しない。そうすると、わざわざ、ネガティヴな情報を掘り起こしにいくようなものじゃない。

奥田 そうですね。しかも、それがどれだけポピュラーな意見なのかも分からないのに。

上野 時々、バカな人が「ご注進、上野さん、こんなところでスレッドが立ってます」とか言うから、見に行ったりするのよね(笑)。そうすると、大体、何の役にも立たないことしか書かれていなくて。だけど、ドス黒い、人の悪意が吹き付けてくるような、気持ち悪い思いだけすることになる。

奥田 だから、SEALDsのミーティングでも、「Twitterは〝もう耐えられない〟と思ったら止めた方がいいし、そもそも、フォロワー以外のリプライは見ない方がいい」って言ってます。

――SNSの中でも、特にTwitterが荒れていますよね。

奥田 だから、ソーシャルメディアは他にも、FacebookとかInstagramとかいろいろあるし、自分に合うものをやればいい。「もし、検索してまでネガティヴなものを見ないと気が済まないんだとしたら、それは病気だから、今すぐアカウント消しなよ」とも言ってます。

牛田 オレは結構、自分から見に行くよ。

奥田 おまえはタフだからいいけど……。

上野 果たしてそれは病気なのかどうなのか。自分の周りにいる学生のメディア行動を見ていると、自分の存在とか他人からの承認っていうものが、ウェブ空間の中に組み込まれているので、どうしてもそこを外せないっていうふうに思えてしまうんだけど。私はITディヴァイドの上の世代だから、ネットをシャットダウンして、なかったことにしてしまえる。でも、「デジタル・ネイティブはそんなわけにはいかない」と、私に解説してくれた人がいて。

奥田 思うのは、去年の夏以前は普通に友達とのコミュニケーション・ツールとして使っていたわけですよ。冗談半分で会話が出来るようなツールだった。

牛田 ふざけて、お互い「ぶっ殺すぞ」とか言い合ったり。

奥田 でも、今はそういう冗談のやり取りをしてると、2ちゃんねるに「奥田と牛田、喧嘩する」みたいなスレッドが。

牛田 「内ゲバ発生!」みたいな(笑)。

上野 誰かがリークしてるの?

奥田 いや、公開でやってるところを監視されてるんですよ。

福田 私も、やっぱり、どうしても気になるからエゴサーチはしちゃうんだけど、ある時、「あれ?」と思ったツイートがあって。アカウントをよく見たら高校の時の男友達3人ぐらいがネトウヨやってて。ホントによく遊んでた子たちだったんですけど。

牛田 えっ! そんなことあるんだ? やっば。

福田 もう最悪とか思って(笑)。それはとてもレアなことだろうけど、誰が何言ってるか分かんないよね。で、Twitterはもうネトウヨでいっぱいだしヤだな、あいつらはダサいからInstagramはやらないだろうって、インスタに移動して。でも、ドイツに行った時、彼氏の実家のダンス・スタジオでポール・ダンスをやった写真に、private studioってコメントを書いて載せたら、次の日ぐらいにはネットで「福田和香子はヨーロッパにスタジオを所有してる。これはSEALDsの資金を流用しているに違いない」みたいな話になってて。

上野 ものすごい妄想力だねえ!(笑) 

牛田 SEALDsの資金でポール・ダンスやりに行くとかヤバイ。頭おかしい(笑)。

福田 適当なrumorばっかり。チューリッヒのブティックで、ダイヤモンドのブレスレットを買った時も写真を上げたんだけど、それについても「SEALDsの資金で~」って(笑)。たぶん、インスタとかも探して見てるんだよね。何かもう私のこと大好きなんだなぁと思って。「だったらいいよ。他の人に被害が及ばない程度にね」って感じだけど、やっぱり、書き方に気をつけないと、変なニュースサイトとかに載っけられて拡散されるのも面倒臭いから。でも、名前を売って食べてるわけじゃないのに、「なんで、たかがSNSでここまでしなきゃいけないの?」っていうのはすごいある。だって、デモしただけじゃん。

奥田 「デモしただけじゃん」(笑)。

上野 ほんとだよね。

福田 で、「デモしただけじゃん」って言うと、また「デモをナメてる」とか言われるんだけど、そんな感じで延々と……。

奥田 以前、労働組合のおじさんに「福田さんの言葉遣いがどうのこうの~」って文句をつけられて、オレ、めっちゃ怒ったことあるんだけど。要は、一時期、女性メンバ―にリプライでポルノ画像が大量に送りつけられたことがあって。しかも、差別的な表現がついた。で、和香子も最初は無視してたのが、我慢出来なくなって、ある時、ブチギレたツイートをして。「あんたらみたいな差別をしてるやつらは社会の最底辺」だと(注:2015年10月13日のツイート「なぜわたしが大事に思ってる女の子たちがこんな社会の最底辺彷徨ってるようなクズに毎日毎日罵詈雑言投げつけられて苦しまなきゃいけないのか。こんなに言われると人でも殺したのかと思うけどデモやっただけだからね アホかよ。」

福田 そうそう(笑)。

上野 はいはい、それ知ってます。共感して、拡散しました(笑)。

奥田 そうしたら、その労働組合のおじさんが「SEALDsの福田和香子さんは、〝社会の最底辺〟なんていう差別的な言葉を使って~」みたいなことを言ってきて。僕も思わず、「それ、どういう文脈で言ったか分かってますか?」って反論して。そうしたら、そのひとが携帯を開いてメールを見せて来たんですけど、なんていうのか、左翼のひとたちのメーリスで、延々議論してるんですよね。「福田さんの発言はどうこう~」「それに対して、辺見庸さんがこう言ってたのは正しい~」みたいな。それを見たらさすがに我慢出来なくなりましたよね。「あんたらさ、他にやることないの?」って(笑)。で、「そもそも、送りつけられてきたポルノ画像見ました? そっちに対しては何も批判しないんですか?」って言ったら、「いや違う、これは批判ではなくて、アドバイスだと思って言ってるんだ」って。

福田 そうそう。〝アドバイス〟してくれるひとがすごく多い。

上野 そういうのは〝クソバイス〟(犬山紙子)って言うのよ(笑)。

奥田 「そんなこと言ったら、男性のメンバーの発言で問題になってるものもたくさんありますよ。何で、あなたたちは、和香子とか、紅子さんとか、万奈ちゃんとかに限って話題にするんですか? 今、オレと話してるんだから、オレについて言ってくださいよ」って怒ったんですけど。それにしても、大体、おじさんなんだよね。〝アドバイス〟してくる人。

福田 Twitterでポルノとかを送りつけてくるのも、大体、おっさんなんだろうな。「西川口のソープがどうのこうの~」とか書いてあるし、おまえ若くねぇだろって。でも、運動の現場で、直接、「皆にもっと意見を聞いて欲しいんだったら、あなたはもうちょっとちゃんとした格好をすべきよ」みたいなことを言ってくるのは、大体、おばさん。

上野 あ、そういうクソバイスもあるの?

奥田 それに対して、「じゃあ、私がリクルートスーツを着て来たら満足ですか?」って言い返してたよね(笑)。

上野 あはは(笑)。今、話を聞いて思い出したのは、私もデビューの時は超顰蹙を買ったの。下ネタで売りだしたおネーさんだったから。『セクシィ・ギャルの大研究』(82年)っていう本が私の処女喪失作。女が下ネタを言えば注目浴びるんだし、使えるものは使ってやろうってそれを出した時に、上の世代のおばさま方から、「最近、何だか品の悪い売り出し方をした若い女の人がいるらしいわね」みたいなことを言われた(笑)。

著者プロフィール(SEALDs上野千鶴子

上野千鶴子
1948年、富山県生まれ。社会学者。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。

福田和香子(SEALDs)
A feminist / future writer / that one weird girl from SEALDs / burger enthusiast.

奥田愛基(SEALDs)
1992年、福岡県生まれ。SEALDs創設メンバーのひとり。一般社団法人〈ReDEMOS〉代表理事。

牛田悦正(SEALDs)
1992年、東京都生まれ。SEALDs創設メンバーのひとり。ラッパー。

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