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広義のBL史の、1970年代末から1990年代初め頃までを牽引した『JUNE(ジュネ)』誌上で英米ゲイ文学や映画を数多く紹介し、多くの読者に影響を与えた柿沼瑛子さんは、溝口彰子さんのBL研究の重要な「師匠」のひとりだそう。このたび『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』の電子書籍化を記念して、おふたりの「師弟対談」が実現しました!

ふたりの馴れ初めは……

溝口彰子さん(左)と、柿沼瑛子さん(右)が初対談。太田出版会議室にてBLトークがスタート! 溝口彰子さん(左)と、柿沼瑛子さん(右)が初対談。
太田出版会議室にてBLトークがスタート!

『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』 溝口彰子/2018年12月電子書籍版発売

溝口(以下、「溝」) 柿沼さんとは、私がロチェスター大学大学院に留学してBL研究を始める前に、東京のレズビアン&ゲイ・コミュニティで知り合っていました。柿沼さんご自身は異性愛者ですが、英米ゲイ文学の翻訳家として。25年前くらいですね。そのおかげで、私、BL研究活動と愛好家活動を始めたのが大学院1年目1998年の秋でしたが、年末の一時帰国時から、つまり、研究のほぼ初めからご指導を受けることができてラッキーでした。「あら、あなたがそっち(BL研究)に……」っておっしゃったのをよく覚えています。

柿沼(以下、「柿」) そんなこと言ったかしら(笑)。

 はい(笑)。そして人を紹介してくださったりいろいろ教えてくださったり。とくに、今回電子化される『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』の第5章の、「性的嗜好/指向の詳細を相互開示する仲間――ゲイ男性との類似点」のセクションは、柿沼さんが、BL愛好家(当時の言葉では「やおい」とか「JUNE」と言っていたと思いますが)は「自分の好きなタイプのキャラクターをはっきり持っている人が多くて、その意味ではゲイ男性に近い」と教えてくださったことから論じることができました。そこから次の「レズビアンとゲイの友情よりも、BL愛好家同士の関係性は根本的に性的である」ということと、BL愛好家は「ヴァーチャル・レズビアン」といえる、という一連の『BL進化論』のかなめの議論の起点となるヒントを柿沼さんにもらったわけです。

そんな風に『BL進化論』では柿沼さんのお名前は何箇所も出てくるのですが、そういえば歴史の証言というか、『JUNE』の初期から1980-90年代にかけての、一番盛り上がっていた時代のことを詳しくうかがったことがないことに気づきまして。今日はそのあたりのことをたっぷりうかがおうと楽しみにしてきました。

 初期の『Comic JUN』の時から知ってますからね。

『JUNE』の誕生と変遷

 ということは、一番最初からですよね。1978年に最初、『Comic JUN』を出したけれどいったん休刊して、『JUNE』として刊行を始めた、そのころからということですよね。

 そうです。早稲田大学のサークル、ワセダミステリクラブで後輩だった佐川(俊彦)くんが、「こんなの出したんですけど」と知らせてくれて。「なにこのポルノみたいなの」って最初は驚いたんだけど、だんだん文学的にソフトになっていったんですよ。

 佐川編集長が、創刊した『Comic JUN』を柿沼さんに見せに来られたんですか。

 いえ、買いましたよ。かわいい後輩が出した本ならと思って。佐川くんは二代目の編集長ですね。初代はもともとサン出版にいた方です。

『トーマの心臓』 萩尾望都/1974年(画像は小学館文庫版)
『密やかな教育―“やおい・ボーイズラブ”前史』 石田美紀/2008年

 なるほど。佐川さんとは早稲田のサークルの先輩後輩だったのですね。

 あのころは「24年組」の少女マンガを愛でる男子たちが多かったんですよ。みんなで読み回したりしていました。

 ワセダミステリクラブで、ミステリではなく「24年組」をみんなで愛でていた?

 みんな、ではなく一部です。正確にいえば、一部の男子。私が大学に入ったころはちょうど『トーマの心臓』(萩尾望都、1974)の連載が始まったころで、この次はどうなるかとかたずをのんでいました。当時わりと少女マンガを読んでいる男子って多かったんです。

 「24年組」の少女マンガを一緒に読んでいた佐川さんが『Comic JUN』を作ったらエロ本みたいだった、のですか。

 版元のサン出版が、エロマンガ、つまり男子が「ヌく」ためのマンガを出しているところで、そこで、「24年組」の「美少年同士もの」の流れで何か出してみませんか、ということだから、エロ中心になるのはしょうがなかったのだと思います。ただ、表紙はたしかもう竹宮恵子さんに描いてもらっていたと思います。『密やかな教育』(石田美紀、2008)の巻末のほうのインタビューで佐川くんが言っていたんだけど、『Comic JUN』への反応がすごく賛否両論だったと。「下品だ、やりすぎだ」という手紙も山のように来て、それを社長に見せて初めて、もう少し佐川君の望む形、よりソフトにすることができるようになったと。そこからいわゆる『JUNE』が生まれたわけですね。


〈プロフィール〉

溝口彰子

ビジュアル&カルチュラル・スタディーズ研究。クィア理論。『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』と『BL進化論〔対話篇〕ボーイズラブが生まれる場所』が2017年度「センスオブジェンダー賞特別賞」受賞。映画、美術、研究倫理など論文記事多数。複数の大学で講師をつとめる。

柿沼瑛子

翻訳家。早稲田大学第一文学部日本史学科卒業。訳書にローズ・ピアシー『わが愛しのホームズ』、エドマント・ホワイト『ある少年の物語』、パトリシア・ハイスミス『キャロル』他。フェロー・アカデミー翻訳講師。